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キッチンカウンターの問題
ブレインストーミング
ギャンブル
プランのセッションで、10万円のインテリア手配の集成材のカウンターをキッチン部分に使うことを書いた。
本来、このシステムキッチンは人造大理石製だったのだが、カウンター部分が柱と干渉してしまうために木目調の部材に変更するという
のがハイムの提案だった。
私は、柱と干渉するなら人造大理石のカウンターを切って短くすればいいと思う。そうすれば10万円も余分に払う必要もなくなるはずだ。
これに対するハイム側の返答は「人造大理石はカットできないから、駄目です」というものだった。人造大理石にノコギリを入れると、
自分の思い通りには切れずに、天板自体がピシッと割れてしまうことがあるらしい。
西山さんも、過去の物件で人造大理石が割れたことがあると言っていた。
この人造大理石という代物は見た目はいいが、汚れたりヒビが入ったりして扱いが面倒だ。
人造大理石の質感を重要視しなければ、ステンレス製を選んだ方が良いのかもしれない。
ただ、人造大理石にノコギリを入れると必ず割れるのかといえばそうではない。
割れないこともある。あるいは、大抵は割れないのだが、たまに割れることがあるという程度かもしれない。
ここでハイムに対して「とりあえず、ノコギリを入れてみて頂戴。割れなきゃ儲けもの。
もし割れちゃった場合の対応は、その時に考えよう」と提案できるだろうか?
おそらくハイムは受け入れないだろう。この提案はギャンブルのようなものだからだ。
ノコギリを入れて割れた場合を考察してみよう。この場合には、もう一度人造大理石のカウンターを用意して再度チャレンジするか、
その時点で10万円のインテリア手配をするかになるだろう。どちらにしても、取り寄せに時間が掛かる。
契約金額が変わってしまう。引渡しが遅れる可能性もある。
だいいちギャンブルのようなノコギリ入れに大工さんがチャレンジしてくれるかどうかも疑問。
一瞬で数万円の損失になるかもしれない賭けには、関わりたくないというのが普通の神経だ。
そう考えると、初めから10万円のカウンターを用意する以外の選択肢は無いことが分かる。
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ある日、カウンターが設置… |
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あらっ? カウンターが白… |
大工の技量
ある日、現場に行った時に驚くべき光景を見ることになる。人造大理石のカウンターが本来あるべき場所にちゃんと設置されていた。
最初見たときには、それが本来の人造大理石のカウンターだと理解できずに、代替の集成材のカウンターが木目調ではなくて
大理石風なのかと思った。
あるいは私の知らないところで、人造大理石のカウンターを設置できることになったのかなと思った。キッチン周りは全面的に妻に任せていたので
私の知らないことがあっても不思議ではない。
妻にメールすると「知らない。あの部分には木目調の集成材が来るのよ。夢でも見てるんじゃないの?」という返事。
何だか分からん話だ。結局、妻と現場で落ち合うことにした。
現場で2人で確認しても、やはり人造大理石のカウンターがちゃんと納まっていた。夢ではなかった。
「何でぇ〜」と妻の声。
2階の大工さんに確認してみる。
「これって標準の人造大理石のカウンターだよね?」と私。
「そうです」と冷静な大工さん。
「このカウンターはここには入らないって聞いてたんだけど…、人造大理石はカットできないからって…」
「人造大理石は切ってません。石膏ボードの壁を削って入れました」との返事。
「はぁ」と状況を理解し切れない私たち夫婦。
だが待てよ、10万円払った代替のカウンターの行方が気になる。
標準の人造大理石のカウンターがちゃんと納まっていれば、集成材のカウンターを10万円も出して手配することもないのだ。
そうか、10万円のカウンターをキャンセルすればいいのだと気付く。
慌てて現場から西山さんに電話するが、彼も状況を理解できないようだ。
「とにかく、標準の人造大理石のカウンターが設置されているので、10万円のカウンターをキャンセルしたい」と言うと、
「10万円のカウンターは既に出来上がっていまして、間もなく届きます」との返事。
「え〜、でも、もう、それ要らないんだけど…」と私。
「あのぅ〜、え〜、どうしましょう。キャンセルは出来ませんが…」と西山さん。
これ以上、電話で話しても状況は変わらないので取り合えず電話を切る。
電話の会話を聞いていた2階の大工さんは、不安そうな顔付きに変わっていた。
「図面にコメントが書いてあるのですが、ちょっと分からなくて…」と大工さん。
大工さんに渡されている図面を見せてもらう。「インテリア手配 取付け」というような文字がキッチンの近くに一応は書いてあった。
「う〜ん、これじゃ何をすればいいのか分からないよね」と私。
大工さんは、自分が人造大理石のカウンターを設置してしまったことの影響力の大きさに気付いて心配そうだ。
「この人造大理石のカウンターは取り外します。インテリア手配のカウンターを付けなきゃいけないですよね?」と慌てる大工さん。
「え〜と、ちょっと待って。ハイムと話をするから。どうするかはそれからにしましょう」と私。
せっかく、人造大理石のカウンターが付いているのに、それを外して集成材のカウンターに替えることは馬鹿らしく思えた。
ギャンブルをせずに、カウンターを設置してしまった大工さんの技量はさすがだと思った。
ノンアポ
その日の夜に西山さんがアパートに来た。アポ無しの訪問。
ノンアポで彼が来たのは、後にも先にもこの1回だけだ。
10万円がパーになるかもしれないトラブルなので、早く対応した方がいいと思ったのだろう。レスポンスの良さには感心した。
こちらの立場は明確。人造大理石のカウンターを使いたいので、10万円は払いたくないというものだった。
まず事実関係を確認する。
「何で人造大理石のカウンターが現場に届いているの? インテリア手配のカウンターに替えたはずなのに」と疑問をぶつける私。
「使っても使わなくても、工場からはキッチン一式で出荷されてしまうんです。
手配したカウンターに現場で差し替えるつもりでした」
「じゃあ、10万円は人造大理石と集成材の差額なの?」と自分の発注内容を理解できていない私。
「いいえ、集成材単独の金額です」
「…ん? で、現場にある人造大理石のカウンターは誰の物なの? 工場に送り返して再利用するんでしょ?」と私。
「廃棄する予定でしたが、正確にはDavidさんのものです。契約金額に含まれています」
「じゃあ、使ってもいいんだ」
「結果としてそうなります」
「となると、やっぱり10万円のカウンターは要らないだけど…」
「…」と無言な西山さん。
さて、ここからの記述が難しいのだけれど、話し合った結果は次のようになった。
私が10万円のカウンターを発注したのは事実なので、使わなくても10万円は支払う。
10万円を無駄にしたようなものだが、西山さんとの間でそのように納得した。
「そんなもの払えるか! 会社に持ち帰って10万円分値引くようにしろ!」と強気に言うことはできた。
私も営業職なので、そのような値引きが不可能でないことは予想できる。
しかしそうなると、西山さんはマイナスの売上げ処理をすることになり、彼を困られることになるだろうと思った。
西山さんは良くやってくれているので、彼をいじめたくないと思った。甘いと言われれば、確かに甘い。
だから、私がした決断は、ハイムで建築中の方がハイムと交渉する場合の参考にはならないと思う。
私が折れた理由はもう一つあった。10万円のマイナス分を、ハイムが2階の大工さんに対して責任追及するかもしれないという心配だった。
大工さんが計画通りに、集成材のテーブルを付けていれば、今回のゴタゴタは起きなかったからだ。
ハイムからすれば、大工さんの勝手な作業で損失を被ったことになる。このようにして責任が大工さんに転嫁される心配があった。
慌てていた大工さんの様子から、ハイムの計画通りに作業をしなかったことへの焦りは読み取れた。
でも、あんな意味不明の図面の注記では作業内容は分からない。だから大工さんに責任はないと私は思う。
ハイムが10万円の損をするならまだしも、それが2階の大工さんのペナルティにされるのは困る。
私にとっては大工さんの技量が幸いした。それが大工さん自身にとって災いになるなら辛い。
私が頻繁に現場に行かなかったら、大工さんの勝手な判断で設置された人造大理石のカウンターは、
集成材のカウンターにちゃんと取り替えられ、何事もなかったように
引き渡されてしまったことだろう。
私たちは、何も知らぬまま集成材のカウンターを使い続けたはずだ。とても恐い話だ。あるいは、知らぬが幸い…か。
現場に足を運んだことにより、住む家が変化してしまうということを体験的に知ることになった。
アイディア比べ
数日後に西山さんと森さんが現場に来ることになった。こちらの希望通りに人造大理石のカウンターを使うことになったのだが、
10万円の板が余ってしまう。捨てるのは勿体無いので、その使い道を検討するため皆で集まって知恵を出そうということになったのだ。
棚にでもして、何とか有効活用しようというつもりだった。心の中に不満は残っていたが、問題を蒸し返すことはしないと決めた。
現場に着くと、稲垣さんが一緒に来ていた。彼女を見た途端に機嫌が良くなる私。二ヶ月振りに見る笑顔。
プラン検討の時には毎週会っていたので、とても懐かしい。現場に来てくれたことも嬉しい。
私と妻とで稲垣さんに家を案内するが、私たち以上に家の詳細が頭に入っていることに気付く。さすがだなと思う。
さて、西山さん・森さん・稲垣さん・2階の大工さん・私たち夫婦の6人で知恵の出し合いを始める。
手始めに届いたばかりの10万円のカウンターを全員で確認する。重くて大きい。長さ270センチ、幅30センチ、厚さ4センチの立派な板だ。
「確かに高そうな板だな。でも10万円は高過ぎだな」と独り言。
人造大理石の代わりに使っても、見栄えのする物だとは思う。だが人造大理石の方が良いことに変わりはない。
いろいろ考えるが、やはりどこかの部屋の棚にするしかないと思う。
270センチの板を分割しては勿体無いので、1枚板のまま棚にしようと思うと付ける場所が限られてくる。
1階の壁に付けるのがサイズ的には合うのだけれど、板の色はライト・ハニーで1階の基調色のモルト・ブラウンには合わない。
ならば、分割して2階の壁に付けようかという案が出るが、1枚だから10万円の価値なので、
分けてしまっては勿体無いという意見も出る。
大人6人が、あちこちの部屋をウロウロしながら、ああでもない、こうでもないと意見を出し合った。
私の意見が簡単に全員に否定されると、ムッとしてしまう。
候補は2〜3個に絞られてきたが、どれもピンと来ない。スッキリと納得できる解決策が見つからなくて全員の口数が少なくなった。
その時、稲垣さんが「この板はカウンターに使うための大きさなので、他の箇所で使おうとしても無理なんです。だから
ここで使いましょう」と言いながらカウンターを指差した。
私は心の中で「はぁ? そりゃないよ。人造大理石の方がいいんだから、集成材はここには使わない」と思う。
彼女は続けて「人造大理石のカウンターの下に30センチくらいの間隔を空けて、平行に付けたらどうかしら」と身振りと一緒に言った。
5人はしばらく考えてから「いいね〜」と口にする。
「さすがインテリアコーディネーターだ」という声も出る。素晴らしいアイディアだと私も納得した。稲垣さん、ステキ!
稲垣さんもまんざらでもない表情。
これ以上の案が出ることもなさそうなので、稲垣さんの案で決着することになった。
こうして、建築中の最大の危機は乗り越えられた。
わが家では稲垣さんの株が急上昇した。
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2枚の板は平行に付けられた |
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現状 収納力のある2重カウンター |
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